青森地方裁判所 昭和27年(行)44号 判決
原告 寺沢久作
被告 赤石村選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が昭和二十七年十一月二十六日なした(一)青森県西津軽郡赤石村長兼平清衛の解職請求者署名簿中別紙第一目録記載の山下芳美外百七十二名の署名を無効とした決定(二)同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿中別紙第二目録記載の山下芳美外百七十六名の署名を無効とした決定はいずれも無効であることを確定するとの判決及び予備的に前記二個の決定はいずれもこれを取消すとの判決を求め、その請求原因としてつぎのとおり陳述した。
原告は普通地方公共団体である青森県西津軽郡赤石村の長及び議会の議員の選挙権を有するものなるところ昭和二十七年九月四日同村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求のため被告委員会からその代表者たる証明書の交付を受け、同村長の解職請求者署名簿に千百六十三名の、同議員の解職請求者署名簿に千百七十三名の、署名捺印を得て同年十月八日被告に対し右署名簿を一括提出して各署名者が選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めた。これに対し被告は同年十一月三日(一)村長兼平清衛の解職請求者署名簿について署名捺印した者の総数千百六十三名、うち有効署名の総数千四十八名(二)村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿について署名捺印した者の総数千百七十三名、うち有効署名の総数千六十五名である旨決定告示し右各署名簿を同年十一月五日から同月十一日まで七日間縦覧に供したところ、補助参加人右兼平清衛、同戸沼英一は同月十一日夫々自己の解職請求者署名簿の署名に関し被告に異議を申立てたがその理由とするところは両者いずれも、署名の蒐集をなした解職請求代表者又はその受任者は署名者に対し署名を求めるに当つて赤石川分水反対の書類だからとか又はダム建設反対の書類だからと詐り村長若しくは議員の解職請求の署名であることを説明しなかつたので署名者は錯誤に陥つて署名したものであり、従つてその署名は無効であるというのであつた。而して右署名に関する異議申立人は右両参加人のみであつた。これに対し被告は右異議の趣旨を容認し同年十一月二十六日村長兼平清衛の解職請求者署名簿の署名中別紙第一目録記載の百七十三名の署名について、村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名中別紙第二目録記載の百七十六名の署名について署名は詐偽に基くもので無効であると決定し、被告は同日その旨を原告に通知した。
然れども被告の右決定はつぎの理由により無効である。即ち選挙管理委員会が解職請求者署名簿の署名の効力を決定しその旨の証明を終えこれを縦覧に供して公表した後は法定期間内に異議申立がなかつた場合は勿論異議申立があつてもその申立自体が無効で申立のなかつたと同視できるような場合にはたとえ右署名にこれを無効もしくは有効とすべき事由があつても同委員会において従前の決定を変更することは許されないものと解すべきところ、本件においては前記の如く補助参加人兼平清衛、同戸沼英一が他人のなした署名を詐偽に基くものであるとして異議申立をなしたのであるが詐偽に基く署名であることを理由とする異議申立は事項自体が本人の内心の意思決定に関するものであるから当該署名者のみがこれをなし得るものと解すべく署名者以外の者のなした右異議申立は無効であり従つて斯くの如き無効な異議申立を容れてなされた被告の本件決定亦無効であるといわなければならない仮に無効でないとしても少くとも違法であり取消さるべきものである。又仮に署名者以外の者も詐偽に基く署名であることを理由として異議申立をなし得るとしても本件村長及び村議会議員の解職請求の署名蒐集に当つて解職請求代表者及びその受任者は各署名者(従つて別紙第一、第二目録記載の各署名者)に対し村長兼平清衛及び村議会議員戸沼英一の解職請求の署名であることを説明してその署名を得たものであり、従つてこれを無効とした本件決定は違法として取消さるべきものである。
これを要するに原告は本件決定の無効確定若しくは取消を求め以て右決定によつて無効とされた署名の有効確定を求めるものである。
本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名はすべて無効である旨の被告の抗弁に対し、本件解職請求代表者の一人石田粂太郎が昭和二十六年七月二十日赤石村農業委員会委員に当選し爾来引続きその地位に在ることは認めるが解職請求代表者の中に村農業委員会委員があつてもそれによつて解職請求者署名簿の署名を無効ならしめるものではないと述べ、本案前の抗弁に対し被告委員会が前記兼平清衛及び戸沼英一の異議申立につき決定を為しその旨同人等に通知した日は共に昭和二十七年十一月二十六日であり本訴は同年十二月九日提起されたものであるから本件提起には被告主張のような違法の点はないと述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は本案前の答弁として原告の請求を却下するとの判決を求めその理由としてつぎのとおり陳述した。
被告が本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名に関する異議について決定をなしたのは昭和二十七年十一月二十四日であり(尤もその旨原告に通知したのは同月二十六日である)従つて右の決定に対する不服の訴は同年十二月八日までに提起せらるべきところ本件訴は同月九日に提起されておるから不適法として却下せらるべきである。
本案の答弁として原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めつぎのとおり陳述した。
原告の請求原因中本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求署名簿の署名に関する異議について被告の決定のなされるに至るまでの経過が原告主張の如くであること及びこれにつき原告主張の如き決定がなされその旨を原告にその主張の日に通知をしたことは(右決定のなされた日が昭和二十七年十一月二十六日であるとの点及び署名に関する異議申立人が参加人両名のみであるとの点を除き)すべてこれを認める。決定のなされた日は同月二十四日であり異議申立人は参加人両名の外異議申立のあつた署名の各署名者である。従つて異議申立人が参加人両名のみであることを前提とする原告の本件決定の無効若しくは取消を求める主張はその理由なきこと明らかである。
更に抗弁としてつぎのとおり陳述した。
本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求代表者の一人である石田粂太郎は昭和二十六年七月二十日赤石村農業委員会に当選し爾来引続きその地位に在り従つて地方公共団体の公務員として本件解職請求代表者となることができないものである。従つて石田粂太郎及び同人の委任を受けた者の蒐集した署名はすべて無効と解すべきところ、本件においていずれの署名が石田粂太郎及びその受任者によつて蒐集せられたものであるかを識別することができないからすべての署名を無効とすべく、従つて別紙第一、第二目録記載の者の署名も無効であり結局本件決定は正当である(立証省略)。
三、理 由
先づ本件訴は出訴期間経過後提起され不適法として却下を免れないとの被告の抗弁につき按ずるに、本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名に関する異議について、被告が決定をなした日について原告は昭和二十七年十一月二十六日であると主張し被告は同月二十四日である旨抗争しているけれども原告が右決定の通知を受けた日が同月二十六日であることは当事者間に争がない。地方自治法第八十一条、第八十条、第七十四条の二によれば前記選挙管理委員会のなした決定に対する出訴期間は決定のあつた日から十四日以内と定められているけれども異議申立を正当であると決定した場合にはその旨申立人の外関係人にも通知し且つ告示をしなければならない旨規定されている法意に鑑みれば右の決定のあつた日とはその決定の通知を受けるべき者についてはその通知を受けた日と解するのが相当である。蓋し決定に対し不服の訴を提起し得るためには該決定が効力を生じたことが必要であり、決定について通知を受けるべき者に対してはその通知を受けたときにその効力を生じるものというべきだからである。果して然らば本件決定は前記当事者間に争なき昭和二十七年十一月二十六日その効力を生じたものというべく、その後十四日内である昭和二十七年十二月九日提起されたこと記録上明らかである本件訴はその余の点を極めるまでもなく適法であり被告の右抗弁はその理由なく採用の限りでない。
つぎに本案について
原告が青森県西津軽郡赤石村の長及び議会の議員の選挙権を有する者で昭和二十七年九月四日被告から同村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求代表者の証明書の交付を受け同村長の解職請求者署名簿に千百六十三名の同議員の解職請求者署名簿に千百七十三名の署名捺印を得て同年十月八日被告に対し右署名簿を一括提出して各署名者が選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたところ被告は同年十一月三日(一)村長兼平清衛の解職請求者署名簿について署名捺印した者の総数千百六十三名、有効署名の総数千四十八名、(二)村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿について署名捺印した者の総数千百七十三名、有効署名の総数千六十五名である旨決定告示し、右各署名簿を同年十一月五日から同月十一日まで七日間縦覧に供したところ補助参加人兼平清衛、同戸沼英一は同月十一日夫々自己の解職請求者署名簿の署名に関し被告に対して署名の蒐集をなした解職請求代表者又はその受任者は署名を求めるに当つて署名者に対し、赤石川分水反対の書類だからとか或はダム反対の書類だからと詐り、村長若しくは議員の解職請求の署名であることを説明せず、ために署名者は錯誤に陥つて署名したものでその署名は無効である旨異議の申立をなした。被告は右異議申立の趣旨を認容し村長兼平清衛の解職請求者署名簿の署名中別紙第一目録記載の百七十三名の署名について、村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名中別紙第二目録記載の百七十六名の署名についていずれも署名は詐偽に基くもので無効であると決定し昭和二十七年十一月二十六日その旨を原告に通知したこと及び訴外石田粂太郎が右村長及び議員の解職請求代表者の一人であつたこと、同人が昭和二十六年七月二十日赤石村農業委員会委員に当選し爾来引続きその地位に在ることは当事者間に争がない。
地方自治法第八十五条第一項によれば公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は村長及び村議会議員の解職請求及びその投票に至る一連の行為に関し準用されるけれども地方自治法施行令第百十六条の二、第百十三条、第百九条によれば公職選挙法第八十九条第一項但書、第二項及び第三項の規定は特に右準用から除外される。従つて国又は地方公共団体の公務員は在職中普通地方公共団体の長又は議会の議員の解職請求代表者となることができないものといわなければならない(なお地方自治法施行令第百十八条、第百十五条参照)。
而して村農業委員会委員は村の公務員であることは疑ないから赤石村農業委員会委員である石田粂太郎は同村長及び同村議会議員の解職請求代表者たり得ないことはいうまでもない。よつて右石田粂太郎が解職請求代表者の一人として求めた本件赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名はすべて(別紙第一、第二目録記載の者の署名を含めて)法令の定める成規の手続によらない署名として地方自治法第八十一条、第八十条、第七十四条の三第一項第一号により無効であると言わなければならない。蓋し解職請求代表者が解職請求者署名簿に選挙権を有する者の署名捺印を求めるに当つては右署名簿に解職請求書及び解職請求代表者証明書又はこれらのものの写を署名簿ごとにつづり込み添付しなければならないのであるから本件においてすべての署名はそれが何人によつて求められたものであつてもその署名のある署名簿には石田粂太郎が解職請求代表者の一人としてその名を連ねている解職請求書及び解職請求代表者証明書又はこれらのものの写がつづり込まれておるからその署名は法令の制限に違反した署名蒐集の仕方によつて得られたもので結局法令の定める成規の手続によらない署名というべきだからである。然らば赤石村長兼平清衛及び同村議会議員戸沼英一の解職請求者署名簿の署名中その一部を無効とした被告のそれぞれの決定の無効確定若しくは取消を求め以て右各署名を有効ならしめようとする原告の本訴請求は爾余の争点についての判断を俟たずしてその理由なきこと明かであるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 中田早苗 野原文吉)
(別紙目録省略)